近親相姦の傷跡を癒す―その破壊的な影響


 近親相姦となる子供に対する強制わいせつ行為とは,年上の近親者が子供たちを性的に犯すことです。これを行なうのは普通,父親,継父,おじ,兄などの近親の男性です。時には近親の女性によってなされることもありますが,男性にくらべるとずっとまれです。


 「物言わぬ子供たち」という本によると,近親相姦による虐待は,みだらな愛ぶから,口腔と性器の接触,性交に至るまで広範囲に及びます。


 ますます堕落している世の中には、近親相姦は、楽しく、正常なことであるという考え方があります。しかし、事実を調べてみると、近親相姦は、当事者に確かに破壊的な影響を及ぼしています。近親相姦を正常なことだとみなすべきではありません。その破壊的な影響を考えると、近親相姦は確かに児童虐待です。


 「レイチェルはこれまでの生涯のほとんどを罪悪感にさいなまれて過ごし,自分はつまらない人間と思い込み,希望のない孤独感にとらわれていました」。


 カリフォルニア州に住む16歳の少女は,「いま私の心の底には悩みがあります。この悩みがなくなることはないでしょう。苦しくて,苦しくてたまりません」と言いました。二人とも子供の時に父親に犯されたのです。残念なことですが,このような人たちは少なくありません。


 近親相姦の犠牲になる人はどれぐらいいるのでしょうか。1978年のアメリカのカリフォルニアでのダイアナ・ラッセルによる調査によると、近親者による性被害率は女性が18歳までで全体の約16%でした。この調査は女性に対する近親姦の全体16%のうち3分の1近くが父親によるものであり、3分の2以上が他の肉親によるものであるということを示しています。


 一方、大学生を対象にしたデイビッド・リザックの1996年の調査報告では近親者による男性の性被害率は16歳までで全体の3-4%ありました。この統計は、女性よりも男性の方が近親相姦の被害にあうことは少ないものの、やはり被害にあうことを示しています。


 また、日本では精神科医斎藤学が1993年に過食症の女性患者52名、比較群の健康女性52人に行った調査があります。その結果、健康女性の2%、過食症の女性患者の21%が18歳までに接触近親姦の被害に遭っているという調査結果が得られました。この統計は、近親相姦の犠牲者となった女性が後年、過食症などの精神的感情的問題に陥りやすいことを示しています。


 世がさらに堕落していくにつれ,この問題は恐らく一層悪化するでしょう。統計が少し古いため、現代の近親相姦の被害者の割合は、もう少し高いことが考えられます。


 近親相姦はなぜそのように破壊的なのでしょうか。「児童福祉」という雑誌は,父親にいたずらされたある娘の立場に注意を引き,次のように述べています。「いたずらをされた少女は父親の保護や世話を受けている。……利用されることに対する深い怒りをあえて表現しようとはしないし,もしかしたら感じることさえないかもしれない。娘は父親の要求に従わざるを得ない。さもなければ自分が必要としている親の愛を失うおそれがある」。


 かつて被害に遭ったある人は,近親相姦は「子供の信頼と依頼心を醜悪な仕方で踏みにじる……利己的でふらちな行為である」と強く主張しています。


 近親相姦は、その後長期にわたって被害者にゆゆしい影響を及ぼします。犯行から何年もたった後に被害者たちはこのように語っています。「私は15年間,そうしたことをすべて心に秘めてきました。ですから,何年もの間罪悪感に絶え間なくさいなまれてきました。……男性というものをどれほど憎んだことでしょう!」


 「いたずらという実際の行為よりも,罪悪感に悩まされるほうがもっと苦しいと言っていいでしょう」。


 「正直なところ,あのことが記憶から去らないので,今ごろは自殺していてもおかしくないくらいです」。


 「性行為の記憶があるので結婚はしたくありません。もちろん子供もいりません」。


 メディカル・タイムズに掲載されたワシントン大学の調査報告書によると、近親相姦の被害者に対する影響に関して次のように書かれています。「報告されたのは次のような問題であった。罪悪感と抑うつ状態; 自分自身について抱く否定的な人間像; 心の底にひそむ男性不信,社交がうまくないこと,性的機能障害などと関連のある対人関係のむずかしさ」。


 近親相姦は、確かにその当事者の人間性に破壊的な影響を及ぼします。深い憤りを抱いている人,自分はつまらない人間と感じている人,とりわけ罪悪感を抱いている人は少なくありません。そのようなことが起きたために,あるいはそのような行為をやめなかったために,または有害な感情を抱くようになったために,罪悪感をおぼえます。また,その行為の間に少しでもそれを楽しむような気持ちを抱いていたなら,また近親相姦が親の夫婦生活に影響を及ぼしたなら,そうしたことのために罪悪感を抱きます。


近親相姦の犠牲になった幼い少女たちの中には,男性は性的にしか自分を愛してくれないのだと考え,自分をひどいめに遭わせている男性ばかりか,ほかの男性に対してもませた行為をするようになった少女もいます。また十代になってから性に対する関心が過度に強くなり,乱交さえ行なうようになった少女もいます。また、売春をするようになった人もいます。


「純潔の死」という本の129ページには次のように書かれています。「売春婦の間で,子供のころに性的に迫られたことのある者の割合は92%であった。67%は何らかの形での近親相姦的な暴行を経験している。……全米平均で少なくとも家出人の75%は,近親相姦的な虐待から逃れて来る。青年期の麻薬中毒の場合にも同じ数字が当てはまる。約70%は近親相姦の犠牲者である」。これは、米国での統計です。しかし、他の国にも当てはまることでしょう。


 近親相姦の犠牲になり、後年になって、統計にも、示されているように過食症などの問題を抱えるようになった人がいます。また、拒食症、自傷症、うつ病、情緒不安定、不安神経症などの感情的精神的問題を抱えるようになった人は少なくないことでしょう。また、仕事中毒,アルコールや麻薬の乱用なども虐待の犠牲者によく見られることです。


 しかし,そのように感じたり行動したりする人はすべて性的な虐待を受けているわけではありません。例えば,専門家によると,異常な家庭―親が子供に暴力を振るったり,子供をけなしたり辱めたり,身体面の世話を怠ったりする家庭,あるいは親が麻薬中毒アルコール中毒の家庭―で育った大人の間にも同じような症状がよく見られます。


 しかし、言えることは、確かに、近親相姦は、児童虐待であり、被害者の人間性と生活に破壊的な影響を及ぼすということです。近親相姦が悪であることを否定すべきではありません。
こうした感情的不安に対処するために,そういう人たちが助けを得る方法が何かあるでしょうか。カウンセラーを職業とする人や心理学者に助けを求める人たちもいますが,精神衛生の分野の専門家でない人が助けを求められることもあるかもしれません。


 では,専門家でない人は、近親相姦の被害者をどのように助けることができるでしょうか。大抵の場合に助けになれる方法はあります。聖書は「互いに慰め」ることを勧めています。(テサロニケ第一 5:11)


 そのことについて、次回「近親相姦の傷跡を癒す―助けにならない言葉と助けになるかもしれない言葉」からお読みください。


※この記事は、ものみの塔1984年1/1の記事「近親相姦の被害者に対する援助」を参考にして作成されています。また、ウィキペディアの「近親相姦」の項の統計からも引用しています。


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