使徒15章・無輸血手術の新しい技術とその効果

「わたしの決定は,諸国民から神に転じて来る人々を煩わさず,ただ,偶像によって汚された物と淫行と絞め殺されたものと血を避けるよう彼らに書き送ることです。」(使徒15:19,20)


 初期クリスチャンのエルサレム使徒たちや年長者たちの指導的な立場にあったヤコブは、話し合いの後に上記の様に述べました。クリスチャンは、モーセの律法を守る必要はありませんが、血を避けることは必要でした。ですから、クリスチャンは輸血を避ける必要があります。無輸血手術には、どんな新しい技術が関係しているのでしょうか。難しい手術でも、無輸血手術ができるのでしょうか。結果はどうなのでしょうか。

 以下の記事は目ざめよ!誌1998年12/8号「無輸血手術を見直す医師たち」からの抜粋です。


               新しい技術
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 新たな技術の中には,(1)手術前の準備,(2)手術中の出血の予防,(3)手術後の管理が含まれています。明らかに,外科的な方法は皆,時間的な要素,つまり手術に備えて患者の健康状態を整える時間があるか,あるいは,緊急手術を行なう必要があるためにそうする時間がないかに大きく左右されます。


 無輸血手術を行なうための理想的な方法は手術前の治療であり,それによって血球数を増やし,全体的な健康状態を改善します。それには,効果の高い鉄剤やビタミン剤だけでなく,ふさわしい場合には合成エリスロポエチン,つまり患者の骨髄を刺激して赤血球の産生を促す薬を投与することが含まれます。微量分析を可能にした科学技術により,検査のために採取する血液の量を少量にとどめ,それでいて,その血液からより多くの結果を得ることができます。これは,未熟児やかなり出血しているお年寄りの患者にとって重要なことです。


 増量剤,つまり血液量を増加させるために静脈から注入される溶液も役立ちます。ある施設では高圧酸素室が使用されており,大量に出血している患者に必要な酸素を補給する助けとなっています。アトランタではロバート・バートレット医師が,酸素室は強力ではあるものの,多量の酸素は有毒なため,慎重に使用する必要があると説明しました。


 手術中の出血の予防という二番目の段階に関しては,多くの新しい器具や医療技術があります。それらは,出血を最小限に抑えるよう助け,侵襲性を少なくして出血や損傷を最小限にとどめ,手術中に失われる患者自身の血液の回収および再利用をすばやく助けます。その新技術を少しだけ取り上げてみましょう。


熱を利用して,止血する電気メス。

手術中の止血を助けるアルゴン光線凝固装置。

振動と摩擦を利用して,切るとほぼ同時に凝血させるハーモニック・スカルペル。

ある種の外科手術で,凝血を促し,出血を抑えるためによく使われる,トラネキサム酸やデスモプレシンなどの薬。

血圧を下げて出血を減らす低血圧麻酔。
さらに,術中血液回収装置が改良されていることも重要です。その装置は,手術中に患者自身の血液を回収し,貯蔵することなくすばやく再利用します。 最新の装置では,患者とつながった状態で血液を種々の成分に分け,必要な成分を再利用することさえできます。

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 手術後の管理には,手術前の準備で用いられる増血方法の多くがしばしばそのまま用いられます。しかしたいていの場合手術後の管理は,輸血を受けなかった患者のほうが,輸血を受けた人よりも容易です。なぜでしょうか。


               目をみはるような結果


 血液を全く排除した技法の場合,手術前や手術中の仕事が多くなる傾向はあります。それでも外科医たちは,手術後の回復に要する時間が短縮されるため,患者の益となることに注目してきました。患者は,しばしば輸血に伴って起こる合併症にかかることはありません。輸血を受けなかった患者の入院期間は短くなることが実証されてきました。


 ニューヨーク病院・コーネル大学医療センターのトッド・ローゼンガート医師は,自分たちの開発した8段階にわたる血液保存法により,複雑な開心術を無輸血で自信を持って行なえるようになったと述べました。ロサンゼルスのグッド・サマリタン病院のマニュエル・エスティオーコー医師は,自分たちが行なった「数百件に及ぶ無輸血開心術に関する広範な経験」について語りました。S・スブラマニヤン医師は,マイアミ小児病院で行なった子供の無輸血開心術の成功例を報告しました。


 整形外科手術,とりわけ股関節置換術は非常に難しい分野です。とはいえ,スウェーデンのウッデバルラ病院のオーラ・ハグ医師は,「外科的な手法と精密さ」を組み合わせることにより,エホバの証人の患者の出血を大幅に減らすことができた,とリガで報告しました。実際,ロンドンのインペリアル大学医学部のリチャード・R・R・H・クームス氏は,「整形外科手術全体の99.9%は……輸血……なしで行なえる」と述べました。