ダニエル7章・ダニエルの夢の海から上る四つの獣

「わたしが夜,自分の幻の中で見ていると,見よ,天の四方の風が広大な海をかき立てていた。そして,四つの巨大な獣,それぞれ他と異なるものが,海から上って来るのであった。」(ダニエル7:2,3)


 バビロンの王ベルシャザルの時に、ダニエルは預言的な夢を見ました。(ダニエル7:1)夢の中で、海から四つの巨大な獣が上ってきました。それぞれの獣は何を表わしていたのでしょうか。預言は成就したので、私たちは預言を解き明かす良い立場にいます。


 海から上ってきた第一の獣は、ライオンに似ていて鷲の翼がありました。翼は抜き取られ、それは人間の心が与えられました。(ダニエル7: 2〜4)


 エレミヤ4章7節にはバビロンが「藪から出るライオンのように」「諸国の民を滅びに陥れている者」であると述べられています。また、哀歌4章19節には、バビロンは「天の鷲よりも早かった」と述べられています。(ハバクク1:6,8)ですから、鷲の翼がありライオンに似ていた獣とはバビロンを表わしていたに違いありません。


 詩篇104編15節には、「ぶどう酒」と「パン」が「死すべき人間の心」を「歓ばせ」、「支える」と述べられています。ですから、バビロンは、ライオンのように勇敢に戦う態度を失って、ぶどう酒やパンなどを喜んで、歓楽に身をやつす国家になることを意味しているのかもしれません。(サムエル第二17:10)実際、バビロンが陥落した時は、大宴会をしていた時でした。


 また、バビロンはペルシャから攻撃された時に、一夜のうちに攻略され、預言されていたとおり、女のように恐れて戦うことをしませんでした。(ダニエル5:30。エレミヤ50:35〜37)このことは、このライオンのようで人間の心を持つようになった獣がバビロンであることを裏づけているでしょう。
二番目の獣は、熊に似ていました。そして、それは一方の側が起こされましたが、その口の中には三本のあばら骨があって、それらは起き上がって,多くの肉を食らいました。(ダニエル7:5)


 では、熊に似た獣とは何を表わしていたのでしょうか。聖書の預言は調和しているはずです。実際に起きた歴史の記録によると、バビロニア帝国に取って代わった王国とは、メディア・ペルシャ帝国でした。(ダニエル書5:30,31;6:28)ですから、熊に似た王国とはメディア・ペルシャ帝国でした。
メディア・ペルシャ帝国は、最初はメディア人が優勢でしたが、後にペルシャ人が優勢になりました。(ダニエル8:3,20)この事が、熊の一方の側が起こされたという象徴表現で表わされていたのでしょう。


 口の歯の間にあった三本のあばら骨とは何を意味しているでしょうか。ダニエル11章2節には、ペルシャにさらに三人の王が立つことが預言されていました。メディア人ダリウスの後に、アルタクセルクセス、ダリウス・ヒュスタスピス、クセルクセス一世であるアハシュエロスが支配します。(エズラ4:7;4:5,24;エステル1:1)これらが、メディア人ダリウスの後になおペルシャに立つ三人の王、つまり、三本のあばら骨を表わしているのかもしれません。


 ダニエルが見た三番目の獣は豹に似ていました。その豹には背中に四つの頭と翼四つがありました。(ダニエル7:6)では豹で表わされた王国とは何でしょうか。史実によると、メディア・ペルシャ帝国に取って代わったのは、ギリシャ帝国でした。(ダニエル8:5〜7)ですから、豹で表わされた王国とは、ギリシャ帝国ということになります。


 ダニエル8章21,22節によるとギリシャについて、毛深い雄やぎの目の間にあった第一の王を表わす大いなる角が折れて、その代わりに四本の角、つまり四つの王国が立ち上がると預言されていました。


 実際の歴史によるとギリシャアレクサンドロス大王は翼のある豹のようなスピードで、小アジア、南のエジプト、インドの西側諸国を征服していきました。(ハバクク1:8)西暦前323年に彼が急死した後、彼の帝国は四人の将軍により四つに分割され、四つの王国が興りました。


 カッサンドロス将軍は、マケドニアギリシャリュシマコス将軍は小アジアトラキアセレウコス将軍は、メソポタニアとシリア、プトレマイオス将軍は、エジプトとパレスチナを支配しました。


 次に、ダニエルが夢の中で見た四番目の獣は、恐ろしく、すさまじく、際立って強いもので、大きな鉄の歯があり、残ったものをむさぼり食い、かみ砕き、その足で踏みつけました。そして、それには十本の角がありました。(ダニエル7:7)


 十本の角のある四番目の獣は何を表わしているでしょうか。史実によるとマケドニアギリシャは西暦前2世紀に、ローマ人の手に落ち、ローマの一属州になりました。そして啓示13章1節には、海から上って来る十本の角と七つの頭がある野獣がいます。これは、主の日に存在する政治組織全体を表わしているでしょう。


 こうして考えてみると、四番目の獣というのは、ローマ帝国と、それが分裂してできた諸国家、そして、主の日のアメリカ合衆国や、十本の角、すなわち主の日における独立した王国、国の中の支配的な勢力、支配者すべても含まれているでしょう。ローマやそれが分裂・派生してできた諸国家は、軍事強国で、他の諸国家を踏みにじりました。


 このように聖書の預言は、政治強国の移り変わりを分かりやすく預言していました。聖書がこのように過去と現代に至るまでの世界強国の移り変わりを預言できたのであれば、現代における聖書の預言も慎重に考慮してみるべきではないでしょうか。