軍事的中立を保つのがなぜ良いことなのですか

諸国家の紛争の多い時代に、どんな軍事大国の側にも立たず、大国の軍事力に頼らずにやっていくのは難しいことのように思えます。しかし、実際は、長い目で見ると他の軍事大国に頼ることは、その国家にとって不利になります。そのことは、イスラエルの十部族王国やユダ二部族王国に起こった歴史の記録から知ることができます。


西暦前8世紀、イスラエル十部族王国が存続していた時に、イスラエルの王メナヘムは、「王国を自分の手のうちに強めるため」、アッシリアの王プルにお金を払いました。(列王第一15:19,20) アッシリア王プルは、ティグラト・ピレセル3世だと考えられています。それからイスラエルは、アッシリアの脅威にさらされた時は、エジプトの王ソに頼りました。



en:Tiglath-Pileser III, en:stela from the en:British Museum, London(tiglath)
大英博物館にあるアッシリアのティグラトピレセル三世の石碑−プルとされる
イスラエルの王はアッシリアのプルに頼りそれは神の目に売春だった



エホバは本来ご自分に頼るべきだった北のイスラエルが、救いや保護のためにアッシリアなどの周囲の諸国家に頼ったことを「売春」と呼ばれました。(ホセア5:13;7:10,11;8:9)そして、エホバはその売春のゆえに、イスラエルアッシリアによって攻められるようにすると言われました。(エゼキエル23:9)


結局、イスラエルの首都サマリアアッシリアの王サルゴン2世の時に攻め取られ、人々は、アッシリアに流刑にされてしまいました。(エゼキエル23:9。列王第二17:6,23) ですから、イスラエルは、神の目に売春を行なって、その淫行の相手から滅ぼされるという結果になりました。



Sargon II and dignitary. Low-relief from the L wall of the palace of Sargon II at Dur Sharrukin in Assyria (now Khorsabad in Iraq)(Sargon II)
サルゴン二世の宮殿の壁の浮き彫りのサルゴン二世と高官
北のイスラエルアッシリアと売春を行ないアッシリアサルゴン二世に滅ぼされてしまった


南のユダ二部族王国は、アッシリアやバビロンなどの周辺の諸国家に救いを頼りました。シリアと北のイスラエルがユダに攻めてきてエルサレムを包囲した時、アハズは、シリアとイスラエルから救ってもらうために、アッシリアにわいろを贈りました。(列王第二16:5,7,8。歴代第二28:16)アハズの頼みはうまくいってアッシリアはシリアを攻め、その王を殺し、シリアの民を流刑にしました。(列王第二16:9)しかし、ユダのアハズがアッシリアに頼ったことは、究極的にユダのためにはなりませんでした。


アハズの息子ヒゼキヤが支配する時に、結局ユダは頼ったアッシリアの軍事的攻撃を受けることになりました。エホバはヒゼキヤの父親アハズの国家的な「淫行」のゆえに、ユダがアッシリアに攻められることを許されました。(エゼキエル23:11,12) しかし、ヒゼキヤは「神エホバに信頼し」、「彼はエホバに付き従っていた。・・・彼はアッシリアの王に背き,これに仕えなかった」と記されています。(列王第二18:5−7)ヒゼキヤは、エホバに頼ってアッシリアに頼るのをやめました。



When King Hezekiah restored the Temple, he held a great celebration there (2 Chronicles 30).(hezekiah1)
ヒゼキヤは神殿を修理して祭りを行なった
ヒゼキヤはエホバの崇拝を推し進めてアッシリアに頼るのをやめました


ヒゼキヤ王の第14年に,アッシリアの王セナケリブSennacheribが、ユダのすべての都市に攻め上って奪いました。(列王第二18:13)ヒゼキヤは、アッシリアの王にお金を払いましたが、アッシリアは立ち退きませんでした。(列王第二18:14-17)そして、ユダは、とうとうアッシリアエルサレムを攻め囲むという絶対絶命に置かれました。その際、ヒゼキヤはエホバに祈って頼ったので、結局エホバはみ使いを用いてアッシリアの軍を全滅させ、エルサレムを守られました。(列王第二19:14-19,35,36)



Descending into Hezekiah's Tunnel-A by Ian W Scott(hezekiahtunnel1)
ヒゼキヤがエルサレムに作ったトンネル


Stone Relief from the palace of Sennacherib by stusmith_uk(Sennacherib5)
セナケリブの宮殿の浮き彫り−ユダはセナケリブに脅かされたがヒゼキヤがエホバに頼ったので救われた


ヒゼキヤ王は、アッシリアの脅威にさらされていたので、おそらくバビロンに頼る気持ちがあったようです。(列王第二20:12,13)最終的に、ユダの二部族王国は、その頼ったバビロンによって滅ぼされ、ダビデ王の子孫によるユダの支配は終わってしまうという結果になりました。ユダは外国によって支配される国になってしまいました。


イスラエルが、アッシリアやエジプトに頼ったこともイスラエルのためにならず、ユダがアッシリアやバビロンに頼ったことも、結局ユダのためになりませんでした。それによってイスラエルは滅ぼされ、ユダはアッシリアによって存亡の危機を経験し、結局はバビロンによって滅ぼされました。


なぜ他の政治強国に頼ることが、うまくいかなかったのでしょうか。まずイスラエルアッシリアに頼ったことは、エホバの目にだったので、エホバはイスラエルアッシリアの手に渡しました。またユダがバビロンに頼ったことも、エホバの目には「売春」だったで、エホバはユダを嫌悪され、エホバはユダをバビロンによって滅ぼされるままにされました。ユダが他の軍事強国に頼ったことは、自らの滅びの原因になりました。(エゼキエル23:9,10,17,18,22,23)


ですから、今日、国家が他の軍事強国に頼るならば、長い目で見て、その頼った軍事強国によって攻撃を受け、滅ぼされるということが起こりえるでしょう。例えば、今日、国家が北の王や南の王の軍事力に頼ったり、それらの国家を軍事的に支援するということは、その頼っている国家が滅ぼされる危険があります。


さらに、聖書はダニエル7章によると、小さな角として描写されている南の王の前に三本の角が引き抜かれると述べられています。(ダニエル7:8,20)角とは国家です。(ダニエル7:20,24)ですから、アメリカは、おそらく幾つかの大国あるいは政権を攻撃して終わらせることが予期できます。


さらに、ダニエル8章の預言の中に、北の王も、「日の出の方」に向かうと述べられています。(ダニエル8:9)日の出の方とは、北の王と南の王以外の国家です。ですから、北の王が攻撃するのは、南の王だけではありません。(ダニエル11:24)ですから、北の王であれ、南の王であれ、軍事的に頼るならば、国家が滅ぼされてしまうということが起こりえます。


では、北の王や南の王と共に軍事的行動を共にしたり、武器を供給して軍事的に支援したりするならどうでしょうか。昔、ユダの良い王エホシャファトは、エホバに従ったので、「富と栄光を豊かに」得ました。しかし、彼はバアル崇拝者のイスラエルの王アハブと「姻戚関係」を結びました。そして、アハブはエホシャファト王に共にシリアとの戦いに行くように誘いました。(歴代第二18:1-3)エホシャファト王はその誘いに応じ、共に戦いに出かけましたが、シリアに負けてしまいました。そして、王は命からがら逃げ帰りました。(歴代第二18:34-19:1)エホシャファト王は、イスラエルと共に戦わない方が、敗北を経験せずにすんだでしょう。


さらに、エホシャファト王は、エホバから、預言者を通して、イスラエルの王を助けたことについて叱責を受けました。そして、「エホバのみ前からの憤り」を被る事になりました。(歴代第二19:2)この例は、他の国を軍事的に支援することをエホバがどのようにみなされるかを示しています。ですから、北の王や南の王を軍事的に支援することも、エホバの不興を被り、戦いに負ける場合さえあるでしょう。


また、国家の「淫行」がある場合、それから逃れるのは、容易ではありません。もし、北の王や南の王との淫行を解消しようとするならば、問題を招くことが予見できます。ヒゼキヤの時のユダがアッシリアによって国家の存亡の危機に立たされたように、国家の危機を招く可能性もあります。


しかし、ヒゼキヤのようにエホバを喜ばせようとする動機で行動する時、エホバからの助けが必ずあるでしょう。ヒゼキヤの時には、み使いが介入しました。また、聖書は、北の王にも南の王にもつかない中立の立場の「地の王たち」が大患難を生き残ることを示しています。(啓示18:9,10)さらに、中立を保つ国の一般市民は、その多くが大患難を生き残る可能性が高くなります。(マタイ26:52。啓示7:9,14。ダニエル11:40,45)


また、現代でも、軍事強国に頼らず、軍事力をあまり持たずに存続している国家も存在します。それらの国家は聖書の神に頼っているわけではないかもしれませんが、幾らか聖書の考え方から影響を受けているのかもしれません。いずれにせよ、それらの国家は、中立の立場を取り、今のところ、経済的繁栄と平和をある程度享受しています。


例えば、アイルランドは、第二次世界大戦にも参加せず、その後も中立政策を採用しており、今のところNATOにも加盟していません。過激派のテロ行為が繰り返されている北アイルランドとは違って、南のアイルランド共和国は、ヨーロッパ諸国の中で最も治安のよい国とされています。アイルランドEUの中で人口あたりのGDPルクセンブルクに次いで大きな国です。


アフリカのモーリシャスは、政治強国との同盟関係はないようです。常備軍は存在せずモーリシャス警察軍が国防を担っています。一人当たりの国民所得ではアフリカで最も豊かです。ですから、政治強国との軍事同盟関係がなくても、平和を保ち、経済的な繁栄を享受している国が存在しています。


聖書は救いは「馬」つまり軍事力ではなく、「エホバによる」と述べられています。(箴言21:31。詩編33:17)それで、国家の指導者にどの政治強国の軍事力や軍事同盟にも頼らず、軍事行動を共にせず、エホバに頼るようお勧めします。